飲食店の経営権を譲渡するための準備とは?契約と手続き方法も解説!

経営権の譲渡

飲食店の経営権を譲渡する場面は、経営者にとって大きな転機です。長年築き上げてきた店舗を手放す寂しさや、適正な譲渡価格がつくのかという不安、従業員や取引先への影響など、さまざまな悩みが押し寄せるものです。

しかし、適切な準備と手続きを踏めば、リスクを抑えてスムーズな譲渡が実現できます。

本記事では、経営権譲渡の全体像から具体的なステップ、注意すべきリスク対策まで、わかりやすく解説します。

このページでわかること

  • 飲食店の経営権譲渡を検討する際の事前準備
  • 譲渡価格の算出方法や契約書の作成ポイント
  • 税務・会計処理やデューデリジェンスの具体的手順
目次

飲食店の経営権譲渡の準備

飲食店

譲渡を成功へ導く鍵は「情報の棚卸し」を早い段階で済ませ、交渉や手続きで後戻りを減らすことです。資産や書類の状態を可視化し、目標と期限を設定してから進めれば、買い手候補との対話もスムーズになります。

譲渡を意思決定する前に確認すべきポイント

まずは「なぜ手放すのか」「譲渡後に店をどう残したいのか」を明確にし、客観的数値で現状を把握しましょう。

  • 財務の健全度
    ↳直近3年の損益、キャッシュフロー、負債構成を一覧化
  • 店舗オペレーション
    ↳シフト表・仕入れ先リスト・マニュアルを整備し属人的工程を減少
  • ブランド資産
    ↳常連客数やSNSフォロワーなど定量指標で強みを把握

これらを整理しておくと、譲渡条件の優先順位が見え、交渉が有利に進みやすくなります。

譲渡価格の算出方法と相場の理解

飲食店の価値は「収益力×無形資産」で評価されます。代表的な3手法を比較すると次のとおりです。

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手法概要強み注意点
DCF法将来キャッシュフローを現在価値へ割引収益性を反映しやすい前提設定で結果が大きく変動
類似取引比較同規模・同立地の取引実績を参照市場感覚をつかみやすい完全に一致する事例は少ない
純資産+営業権資産価値にのれんを上乗せ設備・在庫が多い業態で有効ブランド力を過大評価しやすい

複数手法を照合し、最も低い金額をベースラインに設定して交渉余地を確保すると価格トラブルを防げます。

譲受候補者の選定と信頼性

円滑な譲渡には、経営スキルだけでなく「姿勢」と「資金力」を兼ね備えた相手選びが欠かせません。

  • 情報収集ルート
    ↳同業紹介、M&A仲介、専門家ネットワークを併用し候補母数を確保
  • 資金計画の妥当性
    ↳自己資金比率と金融機関の仮承認を確認し決済リスクを最小化
  • 店舗コンセプトの継承度
    ↳既存顧客や従業員が違和感を抱かない運営方針か面談で確認
  • バックグラウンドチェック
    ↳過去の経営実績、訴訟歴、労務トラブルを公的データと聞き取りで検証

候補者が複数いる場合は店舗見学や試食会を通じて、現場スタッフとの相性まで確かめると失敗確率を大きく減らせます。

飲食店の経営権譲渡の実行【契約と手続き】

譲渡条件が固まったら、次は法的効力を持つ書類を整え、期限通りに手続きを進めます。ここで段取りがあいまいだと後戻りが発生し、資金繰りや営業継続に影響しやすいので注意が必要です。

最初にゴール日時を設定し、専門家と役割分担を決めてから進めるとスムーズです。

必要書類と契約書の作成方法

譲渡契約をまとめる際に必須となる主な書類と、作成・確認の担当者を整理すると次のとおりです。

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書類内容作成・確認の担当
株式等譲渡契約株式や営業権の移転条件、対価、表明保証などを明記弁護士・公認会計士
基本合意書(LOI)価格レンジと独占交渉期間を定める前提合意当事者+仲介者
秘密保持契約(NDA)非公開情報の取り扱いを規定当事者
許認可証の写し食品衛生・酒類販売など各種免許の継続要件を確認行政書士
賃貸借契約関連書類原状回復義務や名義変更承諾書を含む家主・宅建士

チェックリストを共有して担当ごとに締切を設定すると、抜け漏れなく準備が進みやすくなります。

デューデリジェンスで確認すべき項目

専門家による調査では、経営の健全性と法的リスクを立体的に評価します。主なチェックポイントは次のとおりです。

  • 財務面
    ↳未払費用、簿外債務、資産評価差額の有無を検証
  • 法務面
    ↳訴訟・クレーム履歴、契約書の解除条項を調査
  • 労務面
    ↳残業代未払い、社会保険加入状況、雇用契約の整合性を確認
  • 店舗設備
    ↳耐用年数、保守契約、保証範囲を点検
  • 環境・行政規制
    ↳営業許可の更新期限、近隣騒音・排水基準への適合を確認

調査結果はリスクの大きさ別に色分けし、軽微なものは条件調整、重大なものは価格修正や契約条項で対処すると合意形成が早まります。

税務・会計処理の具体的手順

譲渡益に対する納税額や申告期限を押さえておかないと、余計な追徴課税が発生するおそれがあります。主要税目と手続きをまとめると下表のようになります。

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税目計算基準申告・納付期限節税の要点
譲渡所得税譲渡価格 − 取得費 − 譲渡費用譲渡完了日の翌年3月15日まで取得費加算の特例で控除額を拡大
消費税課税売上高が1,000万円超の場合に発生譲渡完了日の課税期間末不課税資産を区分して納付額を抑制
印紙税契約書の対価金額欄契約締結時に貼付電子契約を用いて印紙を省略

資金繰りに影響を与えないよう、譲渡対価の受領時期と納税時期をずらすスケジュールを組み、専門家へ早めに試算を依頼しておくと安心です。

まとめ|飲食店の経営権譲渡の継続と成功

この記事では、譲渡を検討し始めた段階から契約締結、引継ぎ、そしてブランド価値を高める独自戦略まで、飲食店オーナーが通過すべき全工程を具体的に整理しました。

準備フェーズでは財務・オペレーション・ブランド資産を数値化し、実行フェーズでは書類と税務手続きを期限どおりに進める重要性を説明しました。さらに、従業員・取引先・顧客との信頼関係を守りつつ移行を完了させる方法や、譲渡そのものをマーケティング機会へ転換するアイデアも紹介しています。

実際に動く際は、まず譲渡の目的を文章に落とし込み、必要書類とスケジュールを早めに整理すると後戻りが起こりにくくなります。専門家に相談するタイミングを前倒しに設定し、リスクの洗い出しと価格見直しを並行すれば、交渉も資金計画も安定しやすいでしょう。加えて、従業員と顧客への丁寧な情報共有を通じて店舗の価値を守り、譲受側と共にブランドの未来像を描くと、譲渡後の成長チャンスも広がります。

この記事を書いた人

出水祐介のアバター 出水祐介 公認会計士/税理士

公認会計士/税理士。ファーストキャリアをデロイトトーマツでスタートし、日本を代表する大手上場企業の監査に携わる。その後、ベンチャー企業でCFO(最高財務責任者)、コンサルティング会社でM&A事業責任者を経て、会計事務所を設立。現在は、個人事業主やベンチャー企業、中小法人など、幅広いクライアントに対して、会計税務やM&Aの専門的なアドバイスを提供しています。

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