飲食店を経営していると、売上は出ているのに利益が思うように残らず、「人件費が重いのではないか」と感じることがあります。
ただ、勤務時間を減らすだけでは、接客の質や回転の速さが落ちて、かえって利益が縮むこともあります。大切なのは、人件費を単純に削るのではなく、売上とのつり合いを見ながら整えることです。
そこで本記事では、人件費に何を入れるのかという基本から、人件費率・FL比率・人時売上高の見方までを分かりやすく整理します。
このページでわかること
- 人件費に含む費目・含めない費目の考え方
- 人件費率・FL比率・人時売上高の基本
- 自店の人件費が重く見えるときの判断軸
飲食店の人件費とは

給与やアルバイト時給だけで見ていると、社会保険料や残業代が抜けて実際より軽く見えます。また、賞与や教育費を月によって入れたり外したりすると、前月との比較ができなくなります。
人件費は「売上をつくるために人にかけたお金が、利益にどう影響しているか」を確認するための数字です。金額の多い少ないだけでなく、売上との割合や、働いた時間に対してどれだけ売上を作れたかまで見ることが重要です。
まずは自店の集計ルールを決め、毎月同じ基準で数字を見る習慣をつくることが、判断の土台になります。
人件費に含む項目・含めない項目
費目の分け方が月ごとにぶれている店ほど、数字が読みにくくなります。以下を参考に、自店のルールを固めましょう。
人件費に含む
- 給与・時給・各種手当
- 残業代
- 社会保険料(事業主負担分)
- 賞与の月割り額
- 研修・教育にかかるスタッフ稼働分
別管理の支出
- 食材費
- 家賃
- 水道光熱費
- 広告費
- 消耗品費
賞与は支給月だけで集計すると数字が大きくぶれます。月割りにならすことで、月ごとの比較がしやすくなります。オーナーが現場に入っている場合は、その分も仮置きで計上すると店の本来の採算が見えやすくなります。
3つの指標の見方
人件費は総額だけでなく、売上との関係を3つの指標で確認することが重要です。
人件費率
人件費 ÷ 売上 × 100
売上に対して人件費が何%かを示す最も基本的な指標。全体の重さをつかむ出発点になる
FL比率
(食材費+人件費)÷ 売上 × 100
食材と人件費を合わせた主要コストの割合。メニュー構成や食材ロスの影響も同時に見える
人時売上高
売上 ÷ 総労働時間
1時間あたりの売上額。シフトの過不足や時間帯別の人員配置を見直す手がかりになる
人件費率だけで良し悪しは判断できません。FL比率まで見ると食材費とのバランスが分かり、人時売上高を見るとシフト改善に直結するヒントが得られます。まずは直近3か月の売上・人件費・総労働時間を並べてみましょう。
飲食店の人件費の目安
飲食店の人件費率には、理想値と現実の平均値の2つがあります。
| 人件費率 | |
|---|---|
| 理想の目安(計画値) | 30%前後 |
| 現実の平均(小規模店) | 約39.5% |
「30%を超えたら危ない」と焦る必要はありません。日本政策金融公庫の調査では、小規模な一般飲食店の平均は39.5%です。自店の数字がどのゾーンにあるかを把握することが、まず大切です。
数字参考:
日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」。 (日本フードサービス協会)
日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査 2020年8月 飲食店・宿泊業」。
バーは「40%」を上限イメージとして表示しています。
40%近くまで上がっている場合は、深夜帯やピーク前後に人を残しすぎていないか見直すと改善しやすいです。
40%を超えるなら、アイドルタイムの配置や営業時間の長さを見直す余地があります。
40%近い場合は、営業中だけでなく仕込み時間を含めた総労働時間で点検しましょう。
35%を超えて続く場合は、食べ放題の運用や個室の動線を見直すと改善につながりやすいです。
34%台なら整っている状態、39%台なら小規模店の平均圏と、幅を持って読むのが現実的です。
30%台前半に入ってきたら、ピーク外の時間に人が余っていないか確認しておきたいところです。
目安より少し高い程度なら即問題とは限りませんが、40%前後が続く場合はシフト設計や営業時間の見直しを検討すると改善しやすくなります。
居酒屋:33〜35%が目安
公的データでは33.8%。ホール対応・ドリンク作成・配膳が重なりやすい業態なので、飲食店全体の理想値より高めになります。
40%近くまで上がっているなら、深夜帯やピーク前後に人を残しすぎていないか確認しましょう。個室型・週末集中型の店はシフトが厚くなりがちです。
カフェ:35〜36%が目安
公的データでは35.9%。小規模店は思いのほか高くなる業態です。
セルフ方式でドリンク中心なら30%台前半も狙えますが、フードメニューが多い店や滞在時間が長い店は35%台でも問題ありません。40%を超えるなら、アイドルタイムの配置や営業時間を見直す余地があります。
ラーメン店:35%前後が目安
公的データ(中華料理・中華そば含む区分)では35.5%。
スープや具材の仕込み時間まで含めて計算することが重要です。券売機・セルフ返却がある店は30%台前半に寄せやすい一方、自家製仕込みが多い店は35%台でも適正範囲です。40%近いなら、仕込みを含めた総労働時間から点検しましょう。
焼肉店:32%前後が目安
公的データ(朝鮮料理店区分)では32.0%。客単価が高い分、人件費率は低めに抑えたい業態です。
ただし配膳・網交換・追加注文対応でホール負担は重くなりがちです。35%を超えて続くなら、食べ放題の運用や個室の動線を細かく見直したいところです。
ファミリーレストラン:34〜39%が目安
公的データでは調査時期によって34.2〜39.5%と幅があります。営業時間が長く、モーニング・ランチ・ディナーで客層も変わるため、数字が重くなりやすい業態です。
34%台なら整っている状態、39%台なら小規模店の平均圏と、幅を持って読むのが現実的です。
ファストフード:30%前後が目安
公的データでは29.7%。標準化されたオペレーションと短い接客時間を持つ業態なので、飲食店の中では人件費を抑えやすい部類です。
30%台前半に入ってきたら、ピーク以外の時間に人が余っていないか確認しましょう。
人件費が高い=時給が高いとは限らない
人件費が重く感じるとき、原因は時給だけではありません。売上に合わない人員配置、非効率な作業フロー、教育不足によるミスや手戻り、さらにはメニュー数や営業時間の設計まで、複数の要因が絡み合っていることがほとんどです。
「とりあえずシフトを削る」という対処は、短期的に人件費率を下げても、接客品質の低下や回転率の悪化で結果的に利益を減らすことがあります。
大切なのは、何が人件費を押し上げているかを正確につかむことです。
原因1:売上の波とシフトが合っていない
最も多い原因は、客数の増減とシフト配置がずれていることです。
- ピーク時に人が足りない → 提供遅れ・機会損失
- 閑散時に人が余る → 売上が弱いのに人件費だけ積み上がる
- 曜日・予約数を無視した同じパターンのシフト → 余剰か不足のどちらかに偏る
店長の経験則でシフトを組むと、「忙しかった日」の記憶が残って厚めになりがちです。曜日別・時間帯別の実績データをもとに「この時間に何人必要だったか」を振り返る習慣が重要です。
原因2:作業の非効率と教育不足
人数が適正でも、一人ひとりの動き方に無駄があれば人件費は重くなります。よくある例として、同じ場所を何度も往復する、仕込み物の置き場が決まっておらず探す時間が長い、注文の聞き直しが頻発するといったものがあります。
また、教育が属人的だとベテランや店長に負担が偏り、「ベテランがいないと回らない店」になります。結果として必要以上に人員を確保せざるを得なくなります。
原因3:メニュー数・営業時間が負担を増やしている
現場の問題ではなく、店の設計自体が人件費を押し上げているケースもあります。
- メニューが多すぎる:仕込み工程が増え、新人教育にも時間がかかる
- 利益の薄い時間帯まで営業している:売上が弱くても開店・締め作業の人件費は発生する
- 客数が少ないのにフル体制を維持している:営業しているだけで固定費が出続ける
「品数を減らすと売上が落ちる」と不安になりがちですが、利益率の低い商品や時間帯を整理した方が、結果として手元に残る利益は増えることが多いです。
飲食店の人件費を改善するために
人件費の改善は、削ることだけが目的ではありません。同じ労働時間でより多くの利益を残せる体制を作ることが本質です。
| 取り組み | ポイント |
|---|---|
| シフトの見直し | 実績データをもとに、時間帯ごとに必要人数を決める |
| 業務の標準化 | 手順書・役割分担を整え、誰でも動ける仕組みをつくる |
| 省人化ツールの導入 | セルフレジ・モバイルオーダーなど(手順整備が先) |
| 客単価・回転率の改善 | 売上の分母を強くして、人件費率を自然に下げる |
人件費の数字だけを見て判断すると、対策が的外れになりがちです。「何時間削るか」ではなく、「同じ時間でどれだけ利益を残せるか」という視点で、シフト・オペレーション・店の設計を一緒に見直すことが、持続的な改善につながります。





