日本国内のM&A(企業の合併・買収)市場は、大きな転換期を迎えています。その背景には、中小企業の経営者が高齢化している深刻な「2025年問題」があります。約245万人の経営者が70歳を超え、その約半数が後継者を決めていないという事態が起きているのです。
この社会的な課題に対して、M&A仲介会社は単なる「企業の売買」を仲介するだけでなく、産業構造を維持し、成長戦略を支援する役割へとその機能を広げています。
そこで本記事では、では、日本を代表するM&A仲介会社10社を徹底比較しました。
M&A会社には2つのパターンにわかれる

調査の結果、業界は大きく二つのタイプに分かれています。
一つ目は、地域の金融機関との強力なネットワークを持ち、総資産ベースの手数料体系で圧倒的な成約件数を誇る日本M&Aセンターのような「プラットフォーム型」の大手企業です。
二つ目は、M&AキャピタルパートナーズやM&A総合研究所のように、株式譲渡対価(株式価値)ベースの手数料体系を採用し、負債の多い企業のオーナーの手取り額を最大化したり、AI活用によって成約期間を短縮(スピード成約)することを強みとする「ソリューション型」の企業です。
さらに、ブティックス(介護・建設特化)やインテグループ(完全成功報酬・低額最低報酬)のように、大手が見過ごしてきた小規模案件や特定業界のニッチ市場を開拓する新興企業の台頭も目立っています。

日本のM&A仲介業界における手数料構造
各社の詳しい分析に入る前に、日本のM&A業界における手数料構造の仕組みを深く理解する必要があります。
一見すると各社とも「レーマン方式」という標準的な計算式を使っているように見えますが、その適用方法には大きな違いがあり、最終的に支払う手数料額に数千万円から数億円の差が生じることも珍しくありません。
報酬算定基準:「移動総資産」対「株式価値」の違い
M&A仲介会社を選ぶ上で最も重要な指標は、料率(%)そのものよりも、その料率を掛ける「基準額(ベース金額)」が何であるかという点です。業界では主に以下の二つの基準が使われています。
移動総資産ベース
この方式では、「株式譲渡対価 + 有利子負債(+場合によってはその他の負債)」を基準額として手数料を計算します。
- 採用企業:日本M&Aセンター、fundbook(一般的)、名南M&Aなど
- 仕組み:企業のバランスシート全体(総資産)の規模に応じて手数料が決まります
- 特徴:負債が大きい企業(装置産業、ホテル、建設業など)の場合、株式価値(オーナーの手取り)が小さくても、手数料が非常に高額になる傾向があります
株式価値ベース
この方式では、「株式譲渡対価(売り手オーナーが受け取る金額)」のみを基準額とします。
- 採用企業:M&Aキャピタルパートナーズ、M&A総合研究所(売り手側)、インテグループ、ブティックス(取引対価ベース)など
- 仕組み:純粋に株式の売買金額に対して料率を掛けます
- 特徴:負債の多さにかかわらず、オーナーが手にする金額に比例した手数料となるため、負債が多い企業の売り手にとっては圧倒的にコストパフォーマンスが高くなります
【試算例:株式価値5億円、有利子負債10億円の企業(総資産15億円)を売却する場合】
- 株式価値ベース(MACP等)の手数料:5億円 × 5% = 2,500万円
- 移動総資産ベース(日本M&Aセンター等)の手数料:15億円に対する計算で約6,000万円
- 差額:3,500万円もの手数料差が生じる可能性があります
最低報酬額の壁
M&A仲介会社は、案件の規模にかかわらず一定の作業量がかかるため、「最低報酬額」を設定しています。これが事実上の「足切りライン」として機能します。
大手水準(2,000万円〜2,500万円):日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク、M&A総合研究所、fundbookなどが該当。売上規模数億円以上、譲渡価格数億円以上の案件が主要ターゲットです。
中堅・特化型水準(100万円〜1,500万円):インテグループ、ブティックス、オンデックなどが該当。大手では採算が合わない小規模案件や、特定業界の小型承継案件を受け入れています。
着手金・中間金の有無と「完全成功報酬」への流れ
着手金とは、契約時に支払う手付金です。近年は競争激化により無料化が進んでいますが、一部の大手やFA形式では、依頼者の「本気度」を確認するために徴収する場合があります。
また、中間金とは、基本合意締結時に発生する費用です。通常、成約しなくても返還されません。日本M&Aセンターやストライクなどが採用していますが、M&A総合研究所やインテグループなどの新興企業は「完全成功報酬(着手金・中間金無料)」を武器にシェアを奪っています。
代表的M&A仲介会社10社の詳しい分析
以下に、日本を代表するM&A仲介会社10社について、その企業文化、強みをまとめました。
お店売れるくん

〜再生案件・組織再編に強い総合コンサルティングファーム〜
企業概要と強み
会社ごとの売却ではなく、1店舗単位での売却や造作譲渡に特化しており、赤字店舗でも売却可能です。また、店舗専門不動産業者や会計士との連携により、最短1ヶ月での売却を実現します。
さらに、売り手は着手金0円の完全成果報酬型。退店時の原状回復費用を削減(居抜き売却)できる点も大きなメリットです。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:150万円(譲渡代金500万円以下のケース)
- 算定基準:譲渡代金500万円以下の場合は一律150万円。それ以上の金額については詳細要問い合わせ
大手M&A仲介のような時間をかけた複雑な統合(PMI)や企業価値磨き上げよりも、「退去コスト(原状回復費)を抑えたい」「赤字店舗を早期に手放したい」という店舗オーナーのニーズ解決に特化しています。
会計事務所母体の信頼性と、スピーディーな「居抜き売却」や「事業譲渡」の実務に強みがあるため、小規模案件でも依頼しやすいサービスです。
得意業界
- 飲食・サービス業(店舗型ビジネス): 焼肉店、ダイニングなどの飲食店に加え、美容室、学習塾、フィットネスジム、調剤薬局、クリニック、アパレル・雑貨店など、店舗を構える業種全般を得意としています。
- 小規模・切り離し案件: 会社全体の売却ではなく、「不採算店舗のみの撤退」や「1店舗だけの譲渡」といった小規模な事業譲渡案件に対応可能です。
株式会社日本M&Aセンターホールディングス

〜業界を創った最大手、圧倒的ネットワークの覇者〜
企業概要と強み
日本M&Aセンターは、日本のM&A仲介業界におけるパイオニアであり、最大の成約件数を誇る最大手企業です。最大の特徴は、全国の地方銀行の9割、信用金庫の8割、そして数千の会計事務所と提携する圧倒的な情報ネットワークにあります。
自社で案件を開拓するだけでなく、これらの提携先から持ち込まれる膨大な数の事業承継ニーズ(特に地方の中小企業)をマッチングする「ハブ」としての機能が最強の強みです。近年は「PMI(統合プロセス)支援」やクロスボーダーM&Aにも力を入れています。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:2,000万円(税抜)
- 算定基準:移動総資産ベース
- 料金構造:着手金、中間金、成功報酬からなる伝統的な体系。ただし、案件規模や紹介ルートによっては柔軟な対応も見られます
総資産ベースかつ着手金等の存在により、手数料総額は業界内で高めになる傾向があります。
しかし、地方のオーナー経営者にとって「地元の銀行が紹介してくれる」という安心感と、買い手候補の多さ(マッチング力)は、コストを上回る価値として認識されています。
得意業界
- 全業種対応:特定の業種に偏らず、製造、卸売、建設、サービスなどあらゆる業種をカバーします
- 調剤薬局・建設:業界再編が進むこれらの分野でも多数の実績を持っています
M&Aキャピタルパートナーズ株式会社

〜高収益・高年収のエリート集団、大型案件のスペシャリスト〜
企業概要と強み
日本一平均年収が高い企業としても知られるM&Aキャピタルパートナーズは、少数精鋭のコンサルタントによる「ダイレクト・オリジネーション(直接提案)」を強みとしています。
銀行経由ではなく、譲渡企業のオーナーに直接アプローチするため、中間マージンが発生せず、高収益体質を実現しています。一人のコンサルタントが売り手と買い手の双方を担当する一気通貫制を採用しており、複雑な調整が必要な大型案件や難易度の高い案件に強みがあります。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:2,500万円(税抜)。業界最高水準であり、ターゲットが中規模以上の優良企業であることを示しています
- 算定基準:株式価値(株価)ベース
- 料金構造:着手金無料、中間金あり
「株式価値ベース」の手数料体系は、同社の最大の営業武器です。特に負債の多い製造業や建設業、設備投資型の企業にとって、日本M&Aセンターと比較して手数料が劇的に安くなるケースが多く、これを理由に乗り換えを提案する戦略をとっています。
得意業界
- 調剤薬局:専門チームを擁し、業界トップクラスの実績を誇ります
- 建設・設備工事業:負債が大きくなりがちな業界特性と、同社の手数料体系がマッチしています
- 住宅・不動産:大手デベロッパーとのパイプが太い分野です
株式会社ストライク

〜公認会計士主体の高度な専門性とインターネットの融合〜
企業概要と強み
代表が公認会計士であり、社内にも多数の会計士を擁するストライクは、高度な財務知識を要する案件や、複雑なスキームの構築に強みを持っています。
また、業界に先駆けてインターネットM&Aマッチングプラットフォーム「SMART」を展開しており、オンラインでの情報発信とオフラインの専門家対応を融合させている点が特徴です。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:2,000万円(税抜)
- 算定基準:売り手側には柔軟な設定(オーナー受取額基準など)を用いる場合がありますが、買い手側には移動総資産ベースを適用するなど、ケースバイケースの運用が見られます
- 料金構造:2021年に着手金を廃止し、現在は基本合意時の中間金と成功報酬の構成となっています
会計・税務のプロフェッショナル集団であるため、デューデリジェンス(買収監査)への対応力が高く、成約後のトラブルが少ない堅実なM&Aを志向しています。
得意業界
- IT・ソフトウェア:ネットプラットフォーム「SMART」との親和性が高い分野です
- 物流・運送:2024年問題などの業界課題に精通しています
- 全業種:会計事務所ネットワークを通じた幅広い案件に対応しています
株式会社M&A総合研究所

〜AIとDXで業界を席巻するスピードスター〜
企業概要と強み
2018年の創業からわずか数年で上場を果たした急成長企業です。最大の特徴は、徹底したDX(デジタルトランスフォーメーション)とAI(人工知能)の活用です。
独自開発のAIシステムが最適な買い手候補を瞬時に抽出し、マッチング精度を高めることで、平均成約期間を約6〜7ヶ月(業界平均は約1年)に短縮しています。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:2,500万円(税抜・推定)。ただし、案件によっては柔軟な運用も示唆されています
- 算定基準:株式価値(譲渡価格)ベース(売り手側)
- 料金構造:「完全成功報酬制」(売り手側)。着手金・中間金・月額報酬が一切無料
「成約しなければ1円も払わなくてよい」という完全成功報酬モデルは、売り手オーナーにとってのリスクをゼロにする強力な提案です。これが、保守的な手数料体系を持つ既存大手からのシェア獲得を加速させています。
得意業界
- IT・テクノロジー:創業者のバックグラウンドもあり、IT業界の知見が深い分野です
- 製造業:マッチングスピードを活かし、幅広い製造業に対応しています
株式会社fundbook

〜プラットフォームとアドバイザリーのハイブリッド〜
企業概要と強み
fundbookは、「M&Aプラットフォーム」の透明性と「アドバイザリー」の専門性を融合させたハイブリッドモデルを展開しています。
自社プラットフォーム上で買い手候補企業の情報を可視化し、売り手オーナーが自ら候補を確認できる透明性の高さが売りです。親会社であるチェンジホールディングスのDXノウハウも活用されています。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:2,500万円(税抜)
- 算定基準:移動総資産ベース
- 料金構造:着手金無料、基本合意まで無料の成功報酬制を採用。ただし、最低報酬額が高めに設定されており、一定規模以上の案件にフォーカスしています
プラットフォームを活用することで、初期段階のマッチング効率を高めています。最低報酬が高いため、小規模案件よりは中規模案件に強みがあります。
得意業界
- ヘルスケア(医療・介護):創業期からの強みであり、病院やクリニックの承継に実績があります
- IT・通信:親会社のシナジーもあり注力領域となっています
インテグループ株式会社

〜中堅・中小企業の救世主、低価格・完全成功報酬の破壊者〜
企業概要と強み
インテグループは、「中堅・中小企業」に特化し、大手が取りこぼす層(売上数億円〜10億円前後)をターゲットとする戦略をとっています。
最大の特徴は、徹底したコスト削減による「低価格な最低報酬」と「完全成功報酬」の徹底です。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:1,500万円(税抜)、さらに小規模な場合は1,000万円〜の設定もあります。大手の半額近い水準です
- 算定基準:株式価値(譲渡金額)ベース
- 料金構造:完全成功報酬制(着手金・中間金なし)
「大手には頼めない(最低報酬が高すぎる)」が、「個人のブローカーでは不安」という中小企業オーナーにとって、上場企業の信頼性とリーズナブルな手数料を両立した唯一無二の選択肢となっています。
得意業界
- 全業種(中堅・中小):業種を問わず、年商1億円〜20億円規模の企業の承継に強みがあります
- IT・サービス:比較的ライトな資産構成の企業のM&Aに適しています
ブティックス株式会社

〜介護・建設業界のマイクロM&Aを支配する専門プレイヤー〜
企業概要と強み
ブティックスは、介護・福祉用品の展示会事業(CareTEX)を祖業とし、そこで培った膨大な業界データベースを活用してM&A仲介を行う異色の企業です。
特定の業界(介護、建設)に特化することで、一般的な仲介会社が敬遠する小規模案件(マイクロM&A)を効率的に成約させる仕組みを持っています。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:100万円〜500万円(税抜)。業界最安水準であり、売買代金が数千万円の案件でも対応可能です
- 算定基準:取引対価ベース(成功報酬の料率も取引額に応じてスライド)
- 料金構造:完全成功報酬制
許認可が絡む介護事業所や建設業者の譲渡は、規模が小さくても手続きが煩雑であるため、大手仲介会社は採算が合わず参入しません。ブティックスはこの「空白地帯」を独占しており、圧倒的な件数をこなすことで利益を上げています。
得意業界
- 介護・福祉:デイサービス、老人ホーム、訪問介護事業所など
- 建設・工事:地域密着型の工務店、電気工事業など
名南M&A株式会社

〜東海地方の製造業を支える地域密着型コンサルタント〜
企業概要と強み
名古屋を地盤とする名南コンサルティングネットワークの一員であり、東海地方(愛知・岐阜・三重)において圧倒的なブランド力を誇ります。
地域の有力な税理士法人や金融機関と密接に連携しており、特に「モノづくり企業(製造業)」の事業承継に深い知見を持っています。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:500万円(売り手)/1,100万円(買い手・標準)。売り手に対して非常に配慮された低めの設定です
- 算定基準:基本的に移動総資産ベースですが、柔軟性があります
- 料金構造:着手金や月額報酬が発生する場合があります(コンサルティング要素が強いため)
手数料の安さだけで選ばれるのではなく、「地元の名門企業」を理解し、長期的な視点で支援してくれるパートナーとして選ばれています。
得意業界
- 製造業:自動車関連産業が集積する東海地方の特性上、金属加工、部品製造などに極めて強い分野です
- 運送・建設:地域インフラを支える企業の承継に強みがあります
株式会社オンデック

〜関西発、M&Aの「質」にこだわる実力派〜
企業概要と強み
大阪に本社を構え、関西圏を中心に活動するM&A仲介会社です。単純なマッチングではなく、企業価値評価や契約書の精査など、M&Aのプロセスの「質」を重視する姿勢が特徴です。
MBO(マネジメント・バイアウト)やIPO支援など、高度なファイナンス知識を要する案件にも対応できます。
手数料体系と特徴
- 最低報酬:100万円〜500万円(スキームにより変動)。非常に柔軟でアクセスしやすい設定です
- 算定基準:移動総資産ベース(一部時価純資産等の調整あり)
- 料金構造:資料作成料として少額の着手金(30万円程度)や中間金をいただくケースがありますが、これは「本気で売却を検討している企業」にリソースを集中するためです
大手のような派手さはありませんが、堅実で誠実な対応が評価されており、関西の中堅中小企業からの信頼が厚い企業です。
得意業界
- 全業種(関西圏):大阪、兵庫、京都などの地場企業に強みがあります
- 特殊スキーム案件:MBOや事業再生などに対応できます
まとめ:自社に最適なパートナーの選び方
M&A仲介会社の選定に「万能の正解」は存在しません。自社の状況に応じて、以下の基準でパートナーを選定することをお勧めします。
負債が多く、売上規模が大きい企業(年商10億円以上)
- 推奨:M&Aキャピタルパートナーズ、M&A総合研究所、インテグループ
- 理由:「株式価値ベース」の手数料体系によるコスト削減効果が最大化されるため
地方の名門企業で、地元の信頼関係を重視する場合
- 推奨:日本M&Aセンター、名南M&A(東海)、オンデック(関西)
- 理由:金融機関や会計事務所との連携により、地域経済内での円滑な承継(ソフトランディング)が可能になるため
小規模な介護施設、建設業者、店舗ビジネス
- 推奨:お店売れるくん
- 理由:大手では扱ってもらえない(または最低報酬が高すぎる)案件でも、業界最安水準の手数料と専門知識で成約に導いてくれるため
とにかく早く売りたい、IT/Web系企業
- 推奨:M&A総合研究所、ストライク、fundbook
- 理由:ITを活用したマッチングスピードが速く、業界への理解度も高いため
再生が必要な企業、複雑な事情がある企業
- 推奨:お店売れるくん
- 理由:単なる仲介ではなく、コンサルティング機能を通じた再生・再編の知見が不可欠であるため
M&Aは企業の歴史における最大の決断の一つです。手数料の表面的な金額だけでなく、その計算ロジック、担当者の専門性、そして各社が持つ「成約への哲学」を理解した上で契約を結ぶことが、ハッピーリタイアメントまたは企業の更なる成長簿ためには重要です。


