資金が足りなくなる恐怖で夜も眠れない——飲食店を切り盛りする多くの方が抱える切実な悩みです。
売上は季節や天候に左右され、仕入や人件費は先に払わなければならない。そんな不安定なキャッシュフローを安定させるには、数値を可視化し、動きを先読みし、素早く手を打つことが欠かせません。
そこで本記事では、飲食店の資金繰りについて解説します!
このページでわかること
- 資金繰り表を作る手順とポイント
- 飲食店ならではの現金流管理テクニック
- 支払と回収タイミングを調整する交渉術
- 使いやすい資金調達制度の最新情報
- 黒字倒産を防ぐ経営管理サイクルのつくり方
飲食店の資金繰りの基本

資金繰りとは、入出金の時差を管理し、残高が不足する前に対策を打つ仕組みです。飲食店ではカード売上の入金遅延や仕入・給与の先払いなど、現金が減りやすい要因が重なります。
資金繰り表とは?作り方と使いこなしのポイント
資金繰り表は「いつ・いくら残るか」を一枚で把握し、赤字日を最短で見つける道具です。紙でもスプレッドシートでもよいので、まずは形にしてみましょう。
- 横軸に日付、縦軸に「期首残高」「入金」「支払」「期末残高」を配置
- 売上入金予定と支払予定を入力し、期末残高を自動計算
- 残高がゼロを下回る日に色を付け、早めに対策を決める
- 最低運転資金(例:月商の15%)をルール化し、赤字日までの猶予を日次で確認
完璧な精度より「毎日更新」を優先すると、数字の変化にすぐ気づけます。
飲食店特有のキャッシュフロー構造
飲食店は「売上は後日入金、仕入と固定費は先払い」という時差が大きく、黒字倒産を引き起こしやすい業態です。主な入出金タイミングを整理すると、資金が減る谷が見えてきます。
項目 | タイミング | 入出金 |
---|---|---|
現金売上 | 当日 | 入金 |
カード・QR売上 | 営業日翌日〜45日後 | 入金 |
食材仕入 | 納品翌月10日 | 出金 |
家賃 | 月末または月初 | 出金 |
給与 | 月末 | 出金 |
カード入金が遅れる月初や、中旬の仕入支払日が資金の谷になりやすいため、対策はこの日程を中心に考えると効果的です。
コスト構造と売上サイクルの理解
利益を残す鍵は「変動費を売上に合わせて呼吸させ、固定費を抑える」ことです。売上データを分析し、波に合わせてコストを動かせば、同じ売上でも手元資金が増えます。
- 変動費:食材原価・水道光熱
↳仕入量とロス管理で即効性ある調整が可能 - 準固定費:アルバイト時給・広告
↳シフトや広告出稿を見直しやすい - 固定費:家賃・正社員給与・リース料
↳契約期間が長く、変更に時間がかかる
過去3か月のPOSデータを曜日別・時間帯別に集計し、客数が落ち込む時間帯はスタッフと仕入を絞るなど、波に合わせた調整でキャッシュは安定します。

資金繰り表テンプレート:そのまま写して使える
実際に数字を書き込めるテンプレートを用意しました。横軸に日付、縦軸に残高と入出金項目を並べるシンプルな形です。白枠に数字を入力するだけで、毎日の残高と危険日がひと目でわかります。
日付 | 期首残高 | 入金予定 | 支払予定 | 期末残高 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
現金 | カード | その他 | 食材 | 人件費 | 家賃 | その他 | |||
7/21 | 300,000 | 50,000 | — | — | 80,000 | — | — | — | 270,000 |
7/22 | 270,000 | 45,000 | — | — | — | — | — | — | 315,000 |
… | … | … | … | … | … | … | … | … | … |
セルには簡単な計算式(期首残高+入金合計−支払合計)を入れておくと、自動で期末残高が更新されます。赤字になった行に背景色を付ければ、危険日が一目でわかり、対策を検討しやすくなります。
飲食店の資金ショートを防ぐ実践テクニック

手元資金がマイナスになる前に打てる手は数多くあります。ここでは「残高をこまめに測る」「減らすスピードを抑える」「増やすスピードを上げる」という三方向から、即効性のある方法を紹介します。準備に時間をかけず始められる施策を優先しているため、今日の営業終了後から試せます。
日次・週次のキャッシュモニタリング
残高の変化を早期にとらえれば、資金ショートの芽をつぶせます。毎日忙しくても、以下のポイントを押さえるだけで監視体制は整います。
- 前日締め後の残高入力
↳口座残高とレジ現金を足し、期首残高を更新 - 当日入金・支払の即時登録
↳レジ締めや納品受領時にスマホで入力 - 週次レビュー
↳翌2週間の残高推移を見て資金ギャップを検討 - アラートルール
↳最低残高ラインを踏む3日前に通知を出す
入力はスタッフにも分担し、負担を分散すると続けやすくなります。

在庫回転率の最適化とロス削減
食材は現金が形を変えただけの資産です。余らせればそのまま損失に直結します。次の指標と対策を一覧で確認し、在庫を絞りながら売上を守りましょう。
指標 | 目安 | 効果 |
---|---|---|
在庫回転率 | 月2.5回以上 | 滞留資金を圧縮 |
発注ロット見直し | 週次ロットへ細分化 | 仕入支払の平準化 |
メニュー改廃 | 原価率35%以下で再設計 | 粗利向上と廃棄減少 |
ロス日報 | 毎日1行メモ | 原因の即時発見 |
在庫が減ると仕入代金の支払も減るため、残高の谷は浅くなります。ロス日報の共有でスタッフ全員が危機感を持つと、改善速度が上がります。
支払サイト・回収サイトの改善交渉術
入金を早め、支払を遅らせるだけでも大きな資金源になります。交渉は心理戦ですが、相手の利点を示せば合意は取りやすくなります。
- クレジット売上即日入金サービス
↳手数料0.5〜1.5%上乗せで即時資金化 - 仕入先へのサイト延長交渉
↳過去の取引実績と発注ボリュームを提示し45日払いを申請 - 家賃の払込日変更
↳翌月5日払いへ移動し、月末の支出集中を緩和 - 回収保証付き請求書発行サービス
↳数日に短縮しつつ、督促コストを削減
交渉材料は「長期取引」「発注増加」「手数料負担」など相手に利益が出る点を用意すると、応じてもらいやすくなります。
固定費の見直し:家賃・人件費・光熱費
固定費は見直しに時間がかかりますが、減額できれば恒常的にキャッシュが残ります。代表的な費目と実行しやすい削減策をまとめました。
費目 | 削減案 | 目安 |
---|---|---|
家賃 | 賃料交渉・インセンティブ賃料へ切替 | 売上比8%以下 |
人件費 | 変動シフト制・セルフオーダー導入 | 売上比25%以下 |
光熱費 | 時間帯別の設備稼働管理 | 売上比5%以下 |
家賃交渉は繁忙期前より閑散期後のほうが通りやすいなど、タイミングも重要です。人件費は業務フローの再設計とセットで行うと成果が大きくなります。
まとめ|今日から始める資金繰り改善
資金繰り表で日々の残高を数値化し、入出金のズレが生む危険日を先回りする方法を確認してきました。飲食店ならではのキャッシュフロー構造を踏まえ、在庫回転の改善や支払・回収サイトの交渉で残高の谷を浅くし、固定費の見直しで継続的な余裕を作る流れも整理しました。
怖いのは数字が見えないまま時間だけが過ぎることです。今日入力した一行が、明日の安心に直結します。キャッシュが巡れば挑戦できる選択肢も増えます。小さく動き、効果を感じ、改善を積み重ねる――そのサイクルこそ持続的な店舗経営のエンジンです。