「閉店」と「廃業」、どちらも「お店を辞める」といった場面で使われる言葉ですが、実は意味や使い方には大きな違いがあります。
ニュースやSNS、ビジネスシーンでの言葉選びを間違えてしまうと、誤解や不快感を招くことも。特に飲食業や小売業の関係者にとっては、正しく使い分けることが信頼にも関わってきます。
この記事では、「閉店」と「廃業」の定義や使われ方の違いを、法律や会計の観点も交えて分かりやすく解説。実際の使用例や間違いやすい言い換え表現も紹介しながら、言葉の背景にある事情や影響にも目を向けていきます。
このページでわかること
- 「閉店」と「廃業」の法律上の違いと手続き概要
- 自店舗に当てはめて判断できるチェックリスト
- 閉店・廃業それぞれの具体的なステップと費用目安
閉店と廃業の定義の違い

「閉店」と「廃業」は一見似ているようで、意味も使い方も異なる言葉です。
どちらも「営業を終える」という共通点がありますが、それぞれが示す対象や範囲、手続きの有無には大きな違いがあります。特にビジネスの場や報道、法的な文脈では正確な使い分けが求められます。
「閉店」とは?意味と使われ方の基本
「閉店」とは、店舗単位での営業を終了することを指す言葉です。多くの場合、特定の店舗を閉じるケースに使われますが、事業そのものをやめるわけではない点が特徴です。
たとえば全国展開するチェーン店が、赤字店舗を整理する際にも「閉店」という表現が用いられます。
- 売上不振により◯月末で閉店
- 建物老朽化による一時的な閉店
- 移転にともなう現店舗の閉店
「閉店」には一時的な印象や、部分的な撤退というニュアンスも含まれることがあります。また「閉店セール」など、集客のための言葉としても日常的に使われています。そのため、単に営業を終えるだけでなく、消費者とのコミュニケーションにおいて感情的な効果も持つ用語といえます。
「廃業」とは?意味と使われ方の基本
「廃業」は、事業そのものを完全にやめることを意味します。対象は法人・個人事業主を問わず、すべての業務活動を終了し、税務署などに正式な届け出を行うことで成立します。
つまり、単に店舗を閉じるだけではなく、経営者としての活動を終える選択です。
- 高齢により個人商店を廃業
- 長年続けた業務を清算し、法人を解散・廃業
- 後継者が見つからず廃業を決断
このように、「廃業」は制度上の手続きや、社会的にも大きな影響を持つ選択です。閉店に比べてより重みがあり、最終的な区切りという印象を与える傾向があります。また、「廃業届」など公的な用語としても明確に使われており、法的処理との関係が深い言葉です。
閉店と廃業の相関関係と主な違い
「閉店」と「廃業」はどちらも営業の終了に関わる用語ですが、その関係性を整理すると、より正確な使い分けができるようになります。両者の違いは「対象の範囲」と「手続きの有無」にあります。
主な違いをまとめると以下の通りです。
項目 | 閉店 | 廃業 |
---|---|---|
対象 | 店舗(事業の一部) | 事業全体 |
意味 | 店舗を閉じること | 事業そのものを終えること |
継続の有無 | 他店舗や本部は存続可 | すべて終了 |
手続き | 必要に応じて届出や申請 | 税務署などへの届け出が必要 |
使用例 | 「この店舗は閉店します」 | 「個人事業を廃業しました」 |
このように、閉店は「部分的な終了」、廃業は「全体的な撤退」という違いがあります。表現を誤ると、事実と異なる印象を与えてしまうため、文脈や背景に合わせて正しく選ぶことが重要です。

店舗閉店と廃業の判断基準とチェックリスト

店舗を手放すかどうかは、「数字」「法務」「人生計画」の三方向から検証すると結論を出しやすくなります。次の3つの観点で自店の状況を照らし合わせながら読み進めてください。
売上・集客から見る判断ポイント
売上の落ち込みが一時的なのか構造的なのかを区別するには、複数の指標を並べて推移を確認する方法が役立ちます。
指標 | 警戒ライン | 閉店・廃業を検討する目安 |
---|---|---|
月商 | 前年同月比-30% | 6か月連続で回復しない |
客数 | ピーク比-40% | 新規客比率5%未満が4か月続く |
客単価 | 粗利率25%未満 | 値上げ後も赤字が続く |
固定費比率 | 売上の50%超 | 家賃・人件費削減後も黒字化しない |
複数指標が同時に警戒ラインを越えたときは、短期施策では効果が出にくいため「閉店」や「廃業」を視野に入れた資金計画へ移行した方が傷は浅くなります。
法的・手続き上のチェック項目
営業停止を決めたあと手続きが遅れると、税金や社会保険料が思わぬ負担になります。下記の順序で抜け漏れがないか確認しましょう。
- 賃貸借契約の解約予告期間を確認(通常6か月前通知)
- 従業員への解雇予告・就業規則に基づく手当精算
- 社会保険・雇用保険の資格喪失届を期限内に届け出
- 税務署へ「廃業届」または「異動届」を提出
- 都道府県税事務所へ事業廃止の届け出(個人事業主のみ)
- 法人の場合は解散登記・清算結了登記を実施
届け出期限を守ることで延滞加算税や追徴保険料を回避でき、資金流出を抑えられます。
経営者のライフプラン・ビジョン
最後は数字や法律だけでは測れない、経営者自身の将来像を整理します。次の視点から紙に書き出すと、頭の中が整理され判断が速まります。
- 再挑戦意欲
↳3年以内に別業態を始めたい/雇われる道を選びたい - 家計への影響
↳廃業後の生活費は何か月分確保済みか - 家族の同意
↳閉店時の転居や進学に影響が出ないか - 健康状態
↳長時間労働で慢性的な不調が続いていないか - 社会的ネットワーク
↳再就職・事業売却を支援してくれる知人の有無
書き出した内容を客観視すると「閉店で一時休養」「廃業で心機一転」など、自分に合った出口が見えやすくなります。

閉店と廃業の手続き・制度上の違い
「閉店」と「廃業」は日常的な言葉として使われますが、実務の世界では届け出や法的処理に直結する重要な用語でもあります。
特に事業を行っている場合には、必要な手続きや制度の理解が不可欠です。「店舗を閉める」と「事業をやめる」では、求められる手続きが大きく異なります。
閉店時に必要な手続き
店舗を閉めるだけでも、さまざまな手続きが必要になります。事業の継続を前提としている場合でも、対外的な対応や契約の整理をきちんと行う必要があります。
- テナント契約の解約手続き
↳賃貸契約書に基づき、解約通知や原状回復の準備が必要 - 従業員への通知・退職手続き
↳労働契約の終了や雇用保険の処理などを実施 - 在庫や什器の処分
↳棚卸しを行い、廃棄・売却・返却などを決定 - 顧客・取引先への案内文送付
↳営業終了日や今後の対応について誠意ある連絡を行う
これらの手続きはすべて、閉店=事業終了とは限らないため、今後の営業や移転などの方針に応じて柔軟に対応する必要があります。
廃業届や法的手続きについて
事業を完全に終了する場合、「廃業」としての正式な手続きが必要になります。個人事業主と法人では、廃業にともなう手続きが異なります。
代表的な手続きは次の通りです。
事業形態 | 必要な主な手続き |
---|---|
個人事業主 | 廃業届出書の提出(税務署) 所得税・消費税の確定申告 青色申告の取りやめ届出 |
法人 | 解散登記と清算結了登記 法人税・消費税の申告 社会保険・労働保険の廃止届出 |
廃業は「手続きの終了」が明確に法律で定められているため、所轄の行政機関への届出が欠かせません。届出を怠ると、後に不利益が生じる場合もあるため、注意が必要です。
助成金や補助金における用語の違い
閉店と廃業は、行政からの助成金や補助金制度においても区別されることがあります。特に地域経済や雇用への影響を評価する際、制度設計上の用語として「閉店」と「廃業」が明確に区分されています。
- 「廃業支援金」
↳地域内で事業を完全に終了する事業者向けに支給される制度 - 「閉店補助金」
↳商店街の再編や移転に伴う支援を目的としたもの
この違いは制度の趣旨に直結しており、「閉店」=一時的・地域限定の撤退、「廃業」=事業全体の終了という前提に基づいて支援内容が設計されています。
そのため、申請時には自社の状況に合った用語を正しく選択することが不可欠です。
また、助成金申請時には「事業継続の意志がない」ことを証明する書類が求められるケースもあり、単なる「店舗閉鎖」とは扱いが異なる点に注意が必要です。
まとめ
この記事では、閉店と廃業の定義の差異から判断チェックリスト、手続きの流れ、関係者への告知方法、そして再出発の準備までを総合的に整理しました。
まず、売上や固定費の推移を数値で検証し、解約予告期間や税務手続きを逆算することで、資金の流出を抑えつつ決断ができます。
閉店を選ぶ場合は休眠中の固定コストを計算に入れ、再開の可能性を残すかどうかを見極めることが重要です。