「閉店か、それとも廃業か。」売上低迷や家賃負担が重くのしかかる中で、どちらを選ぶべきか迷っている方は少なくありません。
税務署への届出や清算費用、スタッフへの説明など、決断には多方面の準備が伴いますが、実は両者の手続きとコストには明確な差があります。
本記事では法律上の定義から判断フロー、費用目安、再スタート事例まで解説します。
このページでわかること
- 「閉店」と「廃業」の法律上の違いと手続き概要
- 自店舗に当てはめて判断できるチェックリスト
- 閉店・廃業それぞれの具体的なステップと費用目安
- 従業員・取引先・顧客への円滑な告知方法
閉店と廃業の基本的な定義

一般に「閉店」は店舗の営業を終了する行為を指し、法人格や事業主自体は存続している状態を含みます。一方「廃業」は事業そのものを終わらせ、法的にも商売を畳む手続きを行う選択肢です。
「閉店」とは何か
事業を完全に閉鎖するのではなく、営業活動だけを一時的に停止して、法人や個人事業主としての「枠組み」を残しておくという選択肢があります。これは将来的な事業再開を見据えた、柔軟性のある出口戦略の一つと言えるでしょう。
法的な手続きとしては、法人の場合は「休業」という扱いになり、登記を抹消することなく会社を存続させます。個人事業主であれば、開業届をそのまま維持することになります。
実際の手続きでは、店舗や事務所の賃貸契約を解約し、在庫を処分したり、従業員との雇用契約を終了したりする必要があります。ただし、将来的に事業を再開する予定がある場合は、従業員と再契約の可能性について話し合っておくことも可能です。
費用については、店舗の原状回復費用や賃貸契約の解約違約金、従業員への退職金や未払い給与の清算などが発生し、一般的には100万円から300万円程度を見込んでおく必要があります。
「廃業」とは何か
事業主体を解散・清算し、法的に商売を終える手続きです。主要項目をまとめると次のとおりです。
項目 | 個人事業主 | 法人 |
---|---|---|
必須書類 | 廃業届/所得税青色申告取消届 | 株主総会議事録/解散・清算結了届 |
届出先 | 税務署・都道府県税事務所 | 法務局・税務署ほか |
期間 | 1〜2週間 | 解散決議から清算結了まで6〜12か月 |
費用 | 登録免許税なし | 解散・清算で計6万円+公告費など |
主な影響 | 屋号消滅・青色申告特典終了 | 法人格消滅・債務承継不可 |

類似用語との比較(休業・倒産など)
混同しやすい言葉を整理しておくと、金融機関や専門家との会話がスムーズになります。
- 休業
↳一時的に営業を止めるだけで、届出は任意(法人は休眠届を提出可) - 倒産(法的整理)
↳破産・民事再生など裁判所を介した手続きで、債権者保護が主目的 - 事業譲渡・承継
↳店舗・ブランドを第三者へ売却し、負債や雇用を引き継いでもらう方法 - 業態転換
↳飲食から物販などへモデル変更。法人格は維持し新規届け出のみ
店舗閉店と廃業の判断基準とチェックリスト

店舗を手放すかどうかは、「数字」「法務」「人生計画」の三方向から検証すると結論を出しやすくなります。次の3つの観点で自店の状況を照らし合わせながら読み進めてください。
売上・集客から見る判断ポイント
売上の落ち込みが一時的なのか構造的なのかを区別するには、複数の指標を並べて推移を確認する方法が役立ちます。
指標 | 警戒ライン | 閉店・廃業を検討する目安 |
---|---|---|
月商 | 前年同月比-30% | 6か月連続で回復しない |
客数 | ピーク比-40% | 新規客比率5%未満が4か月続く |
客単価 | 粗利率25%未満 | 値上げ後も赤字が続く |
固定費比率 | 売上の50%超 | 家賃・人件費削減後も黒字化しない |
複数指標が同時に警戒ラインを越えたときは、短期施策では効果が出にくいため「閉店」や「廃業」を視野に入れた資金計画へ移行した方が傷は浅くなります。
法的・手続き上のチェック項目
営業停止を決めたあと手続きが遅れると、税金や社会保険料が思わぬ負担になります。下記の順序で抜け漏れがないか確認しましょう。
- 賃貸借契約の解約予告期間を確認(通常6か月前通知)
- 従業員への解雇予告・就業規則に基づく手当精算
- 社会保険・雇用保険の資格喪失届を期限内に届け出
- 税務署へ「廃業届」または「異動届」を提出
- 都道府県税事務所へ事業廃止の届け出(個人事業主のみ)
- 法人の場合は解散登記・清算結了登記を実施
届け出期限を守ることで延滞加算税や追徴保険料を回避でき、資金流出を抑えられます。
経営者のライフプラン・ビジョン
最後は数字や法律だけでは測れない、経営者自身の将来像を整理します。次の視点から紙に書き出すと、頭の中が整理され判断が速まります。
- 再挑戦意欲
↳3年以内に別業態を始めたい/雇われる道を選びたい - 家計への影響
↳廃業後の生活費は何か月分確保済みか - 家族の同意
↳閉店時の転居や進学に影響が出ないか - 健康状態
↳長時間労働で慢性的な不調が続いていないか - 社会的ネットワーク
↳再就職・事業売却を支援してくれる知人の有無
書き出した内容を客観視すると「閉店で一時休養」「廃業で心機一転」など、自分に合った出口が見えやすくなります。

まとめ|閉店か廃業か、最適な選択を
この記事では、閉店と廃業の定義の差異から判断チェックリスト、手続きの流れ、関係者への告知方法、そして再出発の準備までを総合的に整理しました。まず、売上や固定費の推移を数値で検証し、解約予告期間や税務手続きを逆算することで、資金の流出を抑えつつ決断ができます。
閉店を選ぶ場合は休眠中の固定コストを計算に入れ、再開の可能性を残すかどうかを見極めることが重要です。廃業を選ぶ場合は、解散から清算結了まで半年以上かかる点を頭に置き、債務整理や従業員サポートを並行して進めると混乱を防げます。
実務を進める際は、まず今日中に「届出期限」「契約解約日」「在庫処分日」の三つをカレンダーに書き込み、次に専門家へ相談する日時を確保してください。