飲食店を閉店・移転する際に避けて通れないのが「原状回復」です。
しかし、「どこまで工事が必要なのか」「費用はどれくらいかかるのか」「オーナーとの交渉でトラブルにならないか」など、不安を抱えるオーナーも多いでしょう。特に飲食店の場合、ダクトやグリストラップなどの特殊設備があり、一般的なテナントよりも工事の負担が大きくなるケースが少なくありません。
この記事では、飲食店の原状回復に関する基本知識から、費用相場、工事の進め方、トラブルを避けるためのポイントまでを網羅的に解説します。
このページでわかること
- 飲食店における原状回復の定義と特徴
- 原状回復の費用相場と坪単価の目安
- 契約書やオーナーとの協議で注意すべきポイント
飲食店の原状回復とは?

原状回復は、退去時に物件を契約上の約束に沿った状態へ戻すことを指します。民法上の原則と賃貸借契約の条項がベースになり、飲食店は油・熱・水を扱う事情から工事項目が増えがちです。共通理解をつくるために、言葉の整理から出発しましょう。
そもそも「原状回復」とは何か
結論として、原状回復は「通常の使用で避けられない消耗」を除き、借主の行為で生じた変更や汚れ等を元に戻すことです。民法・契約書・物件の受け渡し時の状態が判断材料になります。
項目 | 代表例 |
---|---|
通常損耗・経年劣化 | 日焼け・軽微な床の摩耗・経年の設備劣化 |
借主由来の変更 | 造作壁・間仕切り・看板の取付痕 |
汚損・破損 | 油染み・臭気付着・配管詰まり・機器での破損 |
契約の特約 | 退去時スケルトン・床材指定・ダクト撤去の義務 |
判断は「入居時の状態」「契約条項」「原因」の三点で整理すると誤解が減ります。引渡し時の写真やチェックリストがあると、後日のやり取りがスムーズです。
飲食店ならではの原状回復の特徴
飲食店は衛生・防火・臭気・騒音といった規制や設備の影響で工事項目が増えます。負担が大きくなりやすいポイントを押さえておくと、見積もりの比較がしやすくなります。
- 換気ダクト・フードの撤去
↳屋上や外壁まで延びる配管の撤去・補修が発生 - グリストラップ清掃・撤去
↳油脂・スラッジ処理や配管洗浄の費用が上振れしやすい - 防臭・脱臭対応
↳床下・壁内への臭気浸透を抑える追加工事が必要になることがある - 防水・床下地の復旧
↳厨房床の防水モルタル撤去・下地補修 - ガス・電気の原点化
↳閉栓・主幹容量の原点戻し、計器撤去の手配 - 害虫・衛生対策の仕上げ
↳最終薬剤処理や清掃の実施証跡が求められる場合がある
上記は費用差が出やすい領域です。範囲を具体化し、写真・図面で共有してから見積もりを取ると誤差が減ります。
スケルトン戻しとは?居抜きとの違い
退去形態は大きく「スケルトン」と「居抜き」に分かれます。費用・工期・次テナントの募集性が変わるため、契約条項とオーナー意向を踏まえて選択します。
観点 | スケルトン戻し | 居抜き(造作残し) |
---|---|---|
状態 | 内装・設備を撤去し構造体が見える状態 | 厨房・内装等を残置して引き継ぎ可能な状態 |
費用 | 高くなりやすい(解体・撤去・復旧が広範) | 低減の余地あり(造作譲渡で実質負担を軽減) |
工期 | 比較的長い | 短縮しやすい |
次テナントの自由度 | 高い(用途変更しやすい) | 同業・近業種向けに限定されがち |
交渉のポイント | 契約の特約遵守・復旧範囲の線引き | 残置許可・責任分界・譲渡金の条件整備 |
居抜きは費用圧縮の期待がある一方、残置物の故障責任や引継ぎ条件の整理が不可欠です。スケルトンは費用負担が増えやすい反面、原点回復の解釈が明快で後日の争点が少なくなる傾向があります。

飲食店の原状回復の費用と相場

飲食店の原状回復は、一般的なオフィスや物販店舗と比べても費用が高くなる傾向があります。油や臭気、特殊設備の撤去が必要になるため、相場を理解して事前に準備しておくことが重要です。
坪単価と費用の目安
飲食店の原状回復費用は「坪単価」で計算されるのが一般的です。地域や工事項目によって幅がありますが、平均的な相場は以下の通りです。
規模 | 坪単価の目安 | 特徴 |
---|---|---|
小規模店舗(10〜20坪) | 5〜10万円/坪 | 厨房撤去の有無で総額差が大きい |
中規模店舗(20〜40坪) | 7〜12万円/坪 | ダクト・防水工事が絡むと高額化 |
大規模店舗(50坪以上) | 8〜15万円/坪 | 解体・廃材処分費の割合が増える |
例えば30坪の店舗なら200万〜360万円程度が目安となりますが、厨房設備の規模やダクト工事の有無で大きく変動します。

費用に影響するポイント
原状回復費用は、単純な坪数だけでは決まりません。以下のような要素によって大きく増減します。
- 厨房設備の規模
↳大型フードや製氷機、オーブンなどの撤去費が加算される - ダクトや排気設備の長さ
↳屋上や外壁に延びている場合、足場設置や高所作業が必要 - グリストラップの処理
↳油脂汚泥の処理費が相場を押し上げる要因 - 物件の立地条件
↳繁華街・駅前ビルは工事規制が多く、作業時間制限で費用増 - スケルトン戻しの有無
↳居抜き可なら大幅にコストを削減できる可能性あり
同じ坪数でも条件次第で数百万円の差が生じるため、現地調査と詳細見積もりは欠かせません。
費用を抑える方法
高額になりやすい飲食店の原状回復ですが、工夫次第でコストを抑えることも可能です。代表的な方法をまとめました。
方法 | 具体例 |
---|---|
造作譲渡 | 次の入居者に厨房・内装をそのまま売却 |
複数業者の相見積もり | 最低3社から見積もりを取得 |
一括依頼 | 解体・廃棄・清掃をまとめて発注 |
不用品の売却 | リサイクル業者に什器を売却 |
費用を抑える最大のポイントは「早めの準備」と「情報収集」です。退去日から逆算してスケジュールを立て、交渉余地を広げることが、余計な出費を防ぐ最も効果的な方法です。

現状回復のトラブル回避のために知っておくべきこと

原状回復は高額な費用が発生するため、貸主との認識違いや業者との行き違いがトラブルに直結しやすい場面です。スムーズに退去を進めるためには、事前の確認と記録が欠かせません。
よくあるトラブル事例とその回避策
原状回復で多いトラブルは、費用や工事範囲に関するものです。典型的な事例をまとめました。
トラブル内容 | 原因 | 回避策 |
---|---|---|
工事範囲の認識違い | 契約書や口頭説明があいまい | 事前にオーナーと現地確認、書面で範囲を明記 |
高額請求 | 業者見積もりが一方的、相場を知らない | 複数社から相見積もりを取得し比較 |
退去日の遅延 | 工期を短く見積もりすぎ | 余裕を持ってスケジュールを逆算 |
敷金返還トラブル | 費用精算で貸主と揉める | 領収書・工事明細を保存して交渉 |
どのトラブルも、早めの準備と「書面で残す」ことを徹底すれば大幅に防げます。
立ち会いのメリットと注意点
退去時のオーナー立ち会いは、双方の認識をそろえる大切な機会です。現場での確認を怠ると後日の追加請求につながる可能性があります。
- 工事前に立ち会う
↳どの範囲を工事対象とするか、その場で合意を取る - 工事中に立ち会う
↳進行具合を共有し、仕様の変更や追加が必要か判断 - 工事後に立ち会う
↳完了チェックと鍵の返却を同時に行う
注意点として、口頭合意だけでなく「立会確認書」を残しておくと、後の証拠になります。
写真記録の活用と必要性
写真はトラブル防止に最も有効な記録手段です。工事の前後を残しておくことで、余計な請求や認識違いを防げます。
撮影のタイミング | 記録すべき内容 |
---|---|
入居時 | 床・壁・天井の状態、設備の傷や汚れ |
工事前 | 厨房・ダクト・配管など原状を詳細に撮影 |
工事後 | スケルトン状態、撤去済みの確認写真 |
退去当日 | オーナー立会時の最終状態 |
スマートフォンで十分ですが、撮影日が分かる形で保存しておくと証拠力が高まります。クラウド保存や共有フォルダに整理しておくと後々も安心です。
まとめ|飲食店原状回復で失敗しないための最終チェック
飲食店の原状回復は、契約内容や工事項目によって数百万円単位の費用差が出る重要なプロセスです。この記事では、原状回復の定義や飲食店特有の注意点、費用相場とその内訳、さらにトラブルを防ぐための方法を解説してきました。
実際に取り組む際に大切なのは、以下の3つです。
まず、契約書を確認し、貸主と工事範囲を事前にすり合わせること。次に、複数業者から見積もりを取り、相場感を把握して交渉を進めること。そして最後に、工事の前後を写真で残し、書面で確認を取ることです。これらを徹底すれば、不要なトラブルや追加請求を大幅に避けられます。。